作品について
原題:Gone with the Wind
作者:Margaret Mitchell
出版年:1936年
ジャンル:時代小説
アメリカのアトランタとその周辺を舞台に、南北戦争時代の南部の人々の生活を描いた物語。題名の風と共に去りぬは、穏やかで美しかったかつての生活が跡形もなく消え去ってしまったということを意味している。
主な登場人物
スカーレット・オハラ
物語の主人公。自信家で勝気な美人。わがままで傲慢だけどなぜか憎めないのは、自分にとても正直で、どんな困難にも挫けず常に前を向いているその明るさのせいかもしれない。
レット・バトラー
自信家。家を追い出された後、ビジネスの才を発揮してかなりの富を築いた。スカーレットとはかなり歳が離れてはいるが彼女を長年想い続けている。皮肉っぽい口調だがいつも核心を突いた発言をする。
アシュレ・ウィルクス
上流階級の坊ちゃんで、スカーレットがずっと思い続けている相手。紳士なようで、現代でいう「ダメ男」という感じ。
メラニー
アシュレの婚約者でスカーレットの最初の夫チャールズの妹。稀にみる聖女であり、どんな時もスカーレットの味方でいることを貫き通す。
人種差別問題
本作品における、黒人差別問題を受けてアメリカの動画配信サービスHBOマックスで映画の配信が停止された。
物語の中で奴隷制度が肯定的に描かれている側面があり、主人公たち白人は奴隷に対して決して暴力は振るわない公平な人物である。しかし実際には、不当な扱いを受けた黒人奴隷は多数存在しており、『それでも夜は明ける』という実話をもとにした映画では悲惨な史実を伝えている。私もこの映画を観たが、辛く悲しいものであった。同じ人間なのに、なぜこのような扱いができるのかと、苦しい気持ちになった。一部の農園では奴隷を大切に扱っていたのかもしれないが、多くの奴隷たちは自由も尊厳もないような状況に置かれていたのではないかと思うし、風と共に去りぬを読んで「奴隷制度は想像ほどひどくなかったのかもしれない」という考えを持つことは危険かもしれない。
また、Ku Klux Klanについても、「そんな暴挙に出ざるを得ないような状況に追い込まれた」というような肯定的な描かれ方をしている。もしかしたらそこには事実や、彼らの言い分があるのかもしれない。そうだとしても、作品内でも「馬鹿げた愚かなことだ」とされているし、人殺しや私刑を肯定できるものではない。
訳者解説で、作者の生い立ちなどに触れているのだが、彼女は生粋の南部人であり、家族や周囲の大人たちから当時の話をよく聞いていたようだ。フィクションではあるが、時代背景や当時の人々の生活、価値観をよく反映しているのではないかと考えられる。南北戦争を舞台にした作品は、奴隷制度の悲惨さやリンカーン大統領の正義などに焦点が当てられることが多いが、南部からの視点で考える機会を与えてくれる作品ではないだろうか。黒人が同じ人間であるように、南部の人たちも私たちと変わらない人間なのである。
ネタバレ感想
—–ネタバレを含みます—–
この作品は高校生の頃に読んだことがあったのだが、ストーリーなどうろ覚えで、もう一度読み返した。私の記憶ではスカーレットはアシュレに振られたはずであったが、最後の最後までメラニーとの三角関係が続いていた。読み進めても、アシュレとスカーレットのキスシーンなどがあっても、切なさが全く伝わって来ず、スカーレットはいつまでアシュレにこだわっているんだ!とジリジリしたが、最後の最後で腑に落ちた。アシュレはスカーレットを愛していなかった。本人に自覚は無かったかもしれないが、典型的な「自分大好きダメ男」という感じだ。メラニーはアシュレを母親のような愛で包んでいたが、アシュレはそのメラニーのことも(精神的な意味で)裏切っていて、メラニーが死ぬ間際になって「メラニーがいないと生きていけない!」などと言い出すし、アシュレは誰のためにも何もしていない役立たずであることが決定的となったと思った。スカーレットもアシュレを理解し心から愛していたわけではなく、ただの執着、幼い恋心だと気づいた。なるほど、だから私にはアシュレとスカーレットが想い合っているという印象が無かったのかと納得した。
一方で、最後にスカーレットは自分が本当に愛し大切にしたい人がレットであることに気付いたものの、すでにレットの愛は冷め、そのことを語るシーンはなんだか切なかった。狂おしいような気持ちはもう無く、淡々と「俺の愛はもう冷めてしまったんだ」と言ったり、死んでしまった愛娘のことを「ボニーは君によく似ていた、だからあれほど甘やかし可愛がることができたんだ」と話し、「もう自分の心を危険に晒したくない」と正直な気持ちを吐露する場面は、レットがどれほどスカーレットを愛していたのかということが伝わってくる。スカーレットは気づくのが遅すぎた。3人の夫は皆、アシュレなんかよりずっとスカーレットを愛してくれていて、恋心に惑わされないために実際主義のスカーレットの冷静さが発揮され彼女にとって有益な相手を選ぶことができたのだろうかと思った。
メラニーの今わの際に立ち会う場面から一気に物語が収束していき、何もかもが「結末はこれしかない」という納得感と共に完結した。とはいえ、スカーレットはその前向きさを失わず、レットのことは諦めない、「明日は明日の日が照るのだ」という言葉で締めくくられている。(恋の盲目には勝てないようだが)スカーレットは強い女性だ。このラストは彼女らしいと思うと共に、喪失感ではなく希望を含んだ終わり方なのが良いと思った。
続編があるようだが、作者も違うしこの秀逸な結末を壊したくないのでおそらく読まないだろう。